【解説】 進化するK-POPビジネスのいま 世界化とハイテク化を進める韓国芸能大手

圧巻のダンスを披露した12歳の日本人少年に、審査員のJ.Y.PARKことパク・ジニョン氏が絶賛の言葉を送った。

「評価をすることを忘れて見入ってしまった」、「私とPSYを観客にしてしまった」、「小さい身体なのに関節の使い方がうまいので大きく見える」などなど。

これは6月5日に韓国で放送され、その後YouTubeでも放送されたオーディション番組「LOUD」での一コマだ。圧巻のダンスを披露した日本人少年コウキ君はたどたどしい韓国語で挨拶をしながらも、小さい身体を効果的に使って、審査員であるパク・ジニョン氏と、かつて「江南スタイル」で有名になった共同審査員であるPSY(サイ)から高評価を得た。

「LOUD」は全世界からの応募者のうち(6名の日本人を含む)73名を絞り込み、本選を行う方式であり、ワールドワイドのボーイズグループを作るという企画意図で行われている。(※日本では「dTV®」が配信中)
 

ダイナミックになる韓国大手芸能事務所の動き

韓国の大手芸能事務所の動きがダイナミックになっている。海外進出や買収、ハイテク化、ガバナンスの強化など、最近、注目すべきニュースが多い。

BTSやBLACK PINKなど、K-POPアーティストが世界的に注目されるようになるなか、彼(彼女)らを抱える芸能大手各社も、韓国の一企業から、グローバルエンターテイメント企業への飛躍を目指している。
 

海外への攻勢

韓国の芸能大手といえば、SMエンターテイメント、YGエンターテイメント、JYPエンターテイメント、ハイブ(HYBE/旧ビッグヒットエンターテイメント)の4社が代表的だ。

このうち、資本力で頭一つ抜き出したのがBTS(防弾少年団)の所属するハイブだ。

ハイブは昨年10月の上場後、時価総額が一時、約1兆円を超えた。投資家の利益確定もあり、ハイブの株価はその後大きく下げたが、最近になり再び大きな上昇をみせる。7月10日現在で時価総額は約12兆ウォン(約1.15兆円)に上る。この時価総額規模は、日本円で1千億円前後の他の韓国芸能大手を大きく離す。

ハイブは、今年4月、米国の大手芸能事務所であるイサカ・ホールディングスを買収すると発表した。買収金額は10億5千万ドルとされる。イサカ・ホールディングスは米音楽業界の大物マネージャーであるスクーター・ブラウンが所有し、ジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデなどの大物アーティストらが所属している。

ハイブは米UMG(ユニバーサルミュージック)とも手を結び、グローバルオーディションプロジェクトを開。UMGと北米でオーディションを開き、選抜されたアーティストたちを現地で直接デビューさせる。
 

(画像:ハイブに所属するBTS=ハイブ)
 
これまで韓国の芸能事務所は、所属アーティストが韓国で成功した後に、米国、日本などの海外市場に進出する方式をとってきた。アーティストは韓国語以外の外国語を学び、歌やライブで披露するというローカライズを行ってきた。一部メンバーに日本人や中国人などを入れるのも、ローカライズ戦略の一種だ。

しかし、最近、K-POP人気が世界的な広がりを見せるなか、現地で直接アーティストを企画してデビューさせる流れになっている。近しいところでは、JYPとソニーミュージックと日本で企画し結成されたNiziU(ニジュー)がその例だろう。ハイブはそれを今度は米国で仕掛けようとしている。
 
(参考記事:JYPが東京にポップアップストア出店 TWICEやNiziUが着た衣装、2PMの10周年記念展示など
 
アーティストを現地で育て、現地で活躍させるだけでなく、彼(彼女)らの海外進出や韓国への「逆輸入」についても、人気次第では普通にあり得る話だろう。約2.4兆円とされる世界のエンターテイメント市場のなかでもトップの巨大市場である米国。そこを重要拠点とするべく、ハイブはハイブアメリカに2人のCEOを最近任命した。ハイブを現在の地位に押し上げたとされる実力者のユン・ソクジュン氏と、イサカ・ホールディングスのスクーター・ブラウン氏を二大司令塔とした。

海外展開については、本文冒頭で触れたパク・ジニョン氏が創業したJYPも負けていない。JYPエンターテイメントの最大株主であり代表PDであるパク・ジニョン氏は今回、K-POPがまだ米国で存在を知られていなかった頃に「江南スタイル」で人気を博した歌手PSY(サイ)と共に、オーディション番組「LOUD」を立ち上げた。
 

 
PSYは同オーディションについて「世界におけるK-POPの位置づけがある程度、出来上がってきている中で、《そうだけど、それが全てではない。こんなK-POPもあるよ。》と私達が言えるような特別さがある人、を探しています」と述べている。「K-POPの再定義」とも言える取り組みだ。

一方で、老舗事務所であるSMエンターテイメントも動いている。米MGMと手を結び、やはりオーディションプログラムを行う計画だ。SM所属で、拡張型の男性アイドルグループとして活躍している「NCT」をベースに、「NCT-Hollywood」の結成メンバーを選出するオーディション番組を年内に公開すると明らかにしている。
 

仮想空間にブロックチェーン

各社はテクノロジーへの関心や投資も進めている。対象はメタバース(Metaverse=3次元仮想世界)やNFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)などだ。

韓国では昨年からの新型コロナウイルスの影響で、アーティストのイベントのオンライン化が進み、各社が運営するファンコミュニティプラットフォームアプリも利用者が増えた。
そのような中、ハイブは、韓国の最大手IT企業であるネイバーと手を組んだ。両社はそれぞれ人気プラットフォームアプリである「Weverse」(ウィバース)と「V LIVE」(ブイ・ライブ)を保有していが、これを統合すると発表したのだ。

今後はこのプラットフォームにARベースのSNSネットワークなどのメタバース要素を取り入れることで、イベントのクオリティ向上や同空間でのコンテンツビジネスをより広げていくとみられる。ハイブはすでに、人気ゲーム「フォートナイト」のメタバース空間でBTSのミュージックビデオを公開するなどしており、韓国証券社などからも、「市場の変化を読み取るが速い」と評価されている。

SMエンターテイメントは韓国の理系最高学府であるKAIST(韓国科学研究院)との間でメタバースの共同研究に関するMOUを6月に結んだ。SMエンターテイメントに関しては、創業者であり最大株主でもあるイ・スマン氏が最近、自身の持ち株の一部もしくは全量の売却を検討しているとされ、その引受先として、ハイテク大手であるカカオが名乗りを上げていると韓国メディアでは報じられている。69歳と高齢でもあるイ・スマン氏が、権限を分散することで、企業競争力やガバナンスの強化を図っているとの見方もある。
 

(写真:KAISTとメタバースの共同研究でMOUを結んだSMエンターテイメント)
 
一方で、JYPエンターテイメントは、同国の仮想通貨取引所企業であるドゥナムと手を結ぶと先月発表した。目的はNFTだ。NFTは非代替性トークンと訳されるが、簡単にいえば、ブロックチェーンの技術を使ってデジタルコンテンツなどの違法コピーを防げる技術だ。

すでに世界のアート市場やゲーム業界などでは、この技術を使った作品やアイテムなどが登場し始めている。JYPの狙いは、NFTをアーティストのデジタルグッズやコンテンツに適用することで、同ビジネスを効率的に広げることであるとみられる。さらにその先を見据えているかは現段階では不明だが、韓国芸能大手でNFTに目を付けたのはJYPが初めてだ。(日本ではエイベックスや吉本もNFTを使ったコンテンツビジネスの展開を進めている)

パク・ジニョン氏は、ドゥナム社との提携のために今回、自身が保有するJYPの株約89万株を売却した。それにより、ドゥナムはJYPの持分2.5%を保有することになり、NFT事業のための提携会社も設立すると明らかにされている。

このように韓国芸能大手は、K-POPの世界的人気と、それに応じた資本力と期待値を背景に、コロナ下の経験も糧に、テクノロジーをも備えたグローバルエンターテイメント企業へと転身しようとしている。

 
(参考記事:BTS所属のハイブの株価が4.76%↑ 新MV「Permission to Dance」公開など好感か
(参考記事:[J.Y. Parkが代表PD]韓国JYPエンターテイメントが仮想通貨企業と提携、その深淵なる理由
(参考記事:NiziUのオリコン新記録に韓国紙も注目、30紙が取り上げる