最低賃金の無理な引上げが雇用減少に大きな影響を及ぼす可能性があるという主張が韓国のシンクタンクから提起されている。全国経済人連合会(以下、全経連)はチェ・ナムソク全北大教授に依頼して作成された「最賃金上昇が雇用に及ぼす影響(2022)」報告書を通じて、来年度の最低賃金引き上げ率に対するシナリオ別の雇用減少規模を提示した。
最低賃金1万ウォンで引き上げ、16万個の雇用減少
報告書は韓国福祉パネルの2017年~2020年世帯員パネル資料をもとに最低賃金の雇用弾力性について調べた。その結果、2023年の最低賃金が1万ウォン(約1千円)に引き上げられると、最大16万5000件の雇用が減少すると推定された。全経連は、万が一労働界で要求されるとおり最低賃金を1万890ウォン(18.9%)に引き上げた場合、最大34万件が減少することが分かったと強調している。
報告書は、過去2019年の最低賃金10.9%引き上げにより、合計27万7000件の雇用が減少したと分析した。特に同じ期間に最低賃金引き上げで従事員5人未満の事業体だけで最大10.9万件の雇用が減少し、零細企業の打撃が大きかったことが分かったという。
このような分析結果をもとに、来年の最低賃金が1万ウォンに引き上げられた場合、従事者5人未満の零細事業体で最大7万1000件の雇用が減少すると予想した。労働界が要求するように1万890ウォン(約1133円)に引き上げた場合、最大14万7000の雇用が減少すると予想された。
チェ・ナムソク全北大教授は「分析当時より物価上昇と景気低迷が重なるスタグフレーションの懸念が大きくなった状況」であるとし「急激な最低賃金引き上げがなされると物価が追加的に上昇する悪循環に陥り、余力のない自営業者と零細中小企業の雇用が予想よりも大きく脅かされる可能性がある」と付け加えた。
1万ウォン引き上げられるとソウルの雇用は最大5万件減少
報告書は統計的に有意な分析が可能なソウル、釜山、蔚山、慶南地域を対象に、最低賃金引き上げによる雇用減少効果を推定した。その結果、ソウルの場合、最低賃金が1万ウォン上がる場合、最大5万件の雇用が減少すると予想された。また、報告書は釜山・蔚山・慶南地域も最大3万3000件の雇用が減少すると予想した。
全経連は「ソウルは最低賃金の影響を多く受ける卸小売・宿泊飲食店業などサービス業就業者や青年就業者が多いため、最低賃金引き上げに対してさらに脆弱である」と明らかにし「釜山、蔚山、慶尚南道は伝統的に製造業の強勢だが主力産業不振で雇用条件が悪化しており、零細中小企業の場合、最低賃金引き上げに打撃を受ける可能性がある」と主張した。
宿泊・飲食店業界に致命的打撃
報告書は、宿泊・飲食店業において最低賃金引き上げによる雇用損失が大きかったと明らかにし、1万ウォンで引き上げ時に宿泊飲食店業だけで最大4.1万件の雇用が減少すると分析した。他にも最低賃金引き上げで青年層(満15歳~29歳)や、正規職などの雇用が大きく減少したと分析した。分析結果をもとに1万ウォンに引き上げた場合、青年層は最大4.5万件、正規職は最大2.8万件の雇用が減少すると予想した。
研究結果についてチュ・グァンホ全経連経済政策本部長は「ウクライナ事態長期化でグローバル(規模での)原材料供給難と価格上昇が続いて零細企業の採算性が大きく悪化している状況で、最低賃金さえ引き上げられるとショックが倍になるしかない」とし「これらの生存のためにも過度な最低賃金引き上げを控え、最低賃金引き上げによる副作用が最小化できるように、業種別・地域別の差分適用、企業支払能力の考慮など制度改善が必要だ」と主張した。
全経連は日本の経団連に相当する韓国の経済団体であり、主に企業経営者側の利益に沿った提言を頻繁に行っている。